物語的自己同一性のゆらぎと記録/記憶

※おことわり※
このブログには、『ef -a tale of memories.』『ef -a tale of melodies.』のネタバレが含まれています(ほとんどの方には既知のレベルだと思うのですが)。未見の方は見てからどうぞ。
・・・ネタが浮かばなかったのでなんのヒネリもなく堅苦しいタイトルをつけてしまいました(笑)。第二期が放映されているところなので今更感もあるところですが、第一期の『ef -a tale of memories.』から千尋。深夜に見るとはなはだ目がチカチカしますが、映像はなかなかにキレイで私は第一期・第二期とも好きです。まあ話はそれほど凝ったつくりでは無いですが、演出が上手いですね・・・文字のカットインのタイミングとか重ね方とか。
#なお、「眼帯少女」についてもいろいろと思うところがあるのですが、これはフラジャイリティの問題と接続するので、別稿に譲ります。
ポール・リクールによると、自己同一性(アイデンティティ)をめぐる言説においては、「同一性としての自己同一性(sameness)」と「自己性としての自己同一性(selfhood)」の重要な区別が十分に認識されていないことが多く、そのためにさまざまな混乱が惹起されるのだという(『他者のような自己自身』)。リクールが適切に指摘するように、数的(「同じもの」の再同定)・質的(極度の類似)・時間的(中断されない連続性)な「同一性」が担保がされた場合であっても、それだけで「自己性としての自己同一性」を担保することは出来ない。ここで導入されるのが「語り(narrative)」の次元であり、それだからこそ、「自己性としての自己同一性」は「物語的自己同一性」とも表現されるのであるが、このことは畢竟、上記のアスペクトの中で「時間」が占める役割の大きさを示していることになるだろう。「点的で、非歴史的な自己同一性」を「自己性」に統合するためには、時間のアスペクトを「語り」によって結びつける必要があるのであり、時間的な懸隔を伴う「自己」についての複数の出来事を指示する「物語文」がその営為を媒介することになるであろう(アーサー・ダントー『物語としての歴史』)。
さて、このような「自己性としての自己同一性」を担保しているのは、言語行為を媒介として存在している「人間」にとっては、いわゆる「記憶」であろう。「自分が自分であること」は、複数の異なる歴史的なイヴェントを「自己」の体験として「想起」し、それを一つの統合された時系列に「物語文」によって関係付けることに依拠している。このことの自明性を疑うという意味で、『ef -a tale of memories.』は興味深い思考実験の性質を帯びている。同作のヒロインである千尋の場合、そのアイデンティティの拠り所は「記録」としての日記帳であり、彼女は、日付が変わるごとにその「記録」を「物語文」によって統合することで(「自己」を「歴史」として「物語る」ことで)「自己性としての自己同一性」を担保しているのである。
ところで、この「記憶」の喪失というテーマは、決して同作にオリジナルのものではなく、類似のテーマが同時多発的に取り上げられていることは周知の通りである(『博士の愛した数式』『パコと魔法の絵本』など)。すなわち、「自己」が構築物でしかないということについての認識と、それに基く「不安」は、ある程度のリアリティをもって現代日本社会に流通しているのであろう。しかし、そこで興味深いのは、このように虚構性の高い「自己」のあり方を支えるのが、極めて狭い人間関係でしかない場合が多い、という点である(『ef-a tale of memories.』の場合、このゆらぎは千尋と蓮司との一対一の恋愛関係によってのみ回復されることが暗示されている)。この点は、一般的な意味での「歴史」もまた、(これは古典的な、構造主義的な意味での)「物語」でしかない、という、所謂「国民の歴史」の構築を志向する一部の識者と同根の立場であるように思われる。
無論、この立場に対して、ダントーの言う「理想的編年史家」の前提、すなわち、「過去の実在」についての「神の視点」を導入すべきではない。それに代えて考慮すべきなのは、まさしく「自己」もまた「物語り行為」により構成されている「歴史叙述」であるということによって帰結される「倫理」的局面である(野家啓一『歴史を哲学する』)。その点、第二期シリーズである『ef -a tale of melodies.』が、時間的・空間的な重層性を志向していることには注目すべきであろう・・・というのも、このような外的要因によってこそ、ともすれば緊密な人間関係に閉じがちな、所謂「セカイ系」と呼ばれる世界観を撹乱し、そこにある種の<公共性>を期待することが出来るように思われるからである。


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