テスが「テリーザ」の略称とわかるのは下巻257頁目です(せっかくだから有効活用・2)
当然ながら手元にまったく資料がないため、しょうがないので自分が昔描いたイラストを元に記憶を喚起しながら描いています(ですので元ネタからどんどんズレてしまっている可能性もあります(笑))。アリスソフトの『D.P.S. sg Set2』から、「ANTIQUE HOUSE」のヒロインのテスに「りんごの皮をむく」のポーズをとらせてみました・・・私が冥府魔道に踏み込んでから、もう15年になるのですね(笑
#しかし改めて思い返してみると、テスの衣装にもヘッドドレスはないですね。
わが国における「メイド」のイメージは、カントリーハウスやマナーハウスにおけるメイド、すなわち、職域ごとに役割を分担し、指揮系統が区分されているタイプのものと、ロンドンなどの大都市におけるメイド、とりわけ、雑役女中のような過酷な労働を強いられるタイプのものに両極化しているようである。この両者は、前者はアプリオリな「身分」という差異、後者はアポステリオリな「貧富」という差異(もっとも、これも世代が交代することで固定化されるが)によって、雇い主との距離が遠く設定されている。そのため、多くのフィクションが描いているにも関わらず、メイドと主人のロマンスは成立しにくい、というのが通説的な見解である。
ところで、上記した「ANTIQUE HOUSE」は、有名なトマス・ハーディの『テス』からヒロインの名前を借りているが、ハーディの『テス』がイングランド南部をモデルにした架空の地方農場を舞台としていることは、あるいは「ANTIQUE HOUSE」にも幾許かの影響を与えているようにも思われる(ちなみにゲームの舞台は19世紀フランスという設定となっている)。作中「小間使い」と呼ばれるヒロインのテスは、主人公ルドルフの乳母の娘という設定の下で、幼なじみという役割をも与えられている・・・この設定を、「身分」というアプリオリな差異を前提とするロマンスを彩る、史実とは異なる脚色と把握するのは容易いが、ここでいう「史実」が果たしてどれほどのリアリティがあるのか、という点は、別途検討に値するであろう。
ランカシャー地方、マンチェスターに程近いロッチデールという地方都市の人口統計を精査したEdward Higgsは、この都市を分析対象に選んだ理由を「ロンドン及びカントリーハウスの検討により得られる通例のサービス産業のイメージの有益なカウンターバランス」であることに見出している(Domestic Servants and Households in Rochdale, 1851-1871, Garland Pub., New York & London, 1986, p.9)。その検討の結果得られた結論は、「domestic servantsが召使と雇い主の間の金銭関係の条件によって定義されているにも関わらず、『召使』もしくは血縁の者による家での労働はきわめて広い含意を持つ」というものであり、「実際には、給与を支払われている雇用者や雇われの使用人と、落ちぶれた家族の古い友人の女性や、地方からやってきてポケットマネーで家事の手助けをする遠い親戚とを隔てる社会的地位の多様な陰影を推し量ることは難しい」というものであった(p.49)。
ここには、カントリーハウスやロンドンのような大都市においてカリカチュアライズされたものとは違う、別のメイドの姿があるようにも思われる。「メイド」としてカウントされていた女性が、実際には子守を任されているその家の子供や親戚だったり、あるいは未亡人として家を切り盛りするhousekeeperだったりするこれらの場では、雇い主とメイドの距離は、相対的に流動的であったようにも思われる・・・ある種典型的な「身分違いのロマンス」を展開する「ANTIQUE HOUSE」が、19世紀フランスの片田舎という舞台(主人公のルドルフはパリに遊学していて戻ってきた旨の描写があり、舞台装置には狩猟小屋や廃坑などが用いられる)を選んでいることの背後に、周到な計算があったのだとしたらなかなかに面白いのだが。
#単に、「修道院に行く」という設定がアングリカンチャーチだと有難味に欠ける、という配慮だったのかもしれないが(笑
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